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SOLD OUT
著者 高秀美
発行 三一書房
発行日 2024/12/25
在日三世、女性編集者のエッセイ集。
「なぜこんなにも激しく”わが民族”というものを求めて心が向かい、同時に民族に対して個を守ろうとするかのように心を閉ざし続けるのか。この引き裂かれた私の根拠は何なのか。
実はまだよくわからない。
ただ今の私にはっきりわかっていることと言えば、踊りの場がある限り、その身近に寄り添って生きていくに違いないということだけである。それだけは確かだ。」
「その日、父が『朝鮮の踊り』を観に連れて行ってくれることになっていた。‥その公演は在日の歌劇団によるものだったのではないかと思う。‥ふと20メートルほど先のあたりの扉のところに一人の子どもが立っているのが目に入った。‥自分の目を疑うという言葉があるが、まさにそれがこのときだった。H君が立っていた。‥
ーーあの子も朝鮮人だったんだ。‥
私はH君が「川向う」といわれる他区から越境入学していること、彼が学校でも、そして家の中でも荒れていることのわけが少しわかったような気がした。‥
次の日、やはり昼休みの時間だった。‥昨日劇場で会った時と同じようにH君が何メートルか先に立っていて、私を正面からまっすぐ見ていた。H君はそのままゆっくり歩いてやってきた。‥
ーーきのう、来たのか?
ーーうん。‥
H君の顔はどんなだったのか、まったく覚えていない。ただ、いつも思い出すのは私に向かって歩いてくるときのH君のやわらかな笑顔のことだ。」