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著者 坂本龍一・中沢新一
出版社 イースト・プレス
発行日 2023/12/15
「おっ」と思いました。長い間絶版だったこの本が新版で再登場したからです。2010年の出版当時、私はそのおもしろさに興奮し、知り合いにプレゼントしようと思っているうちにいつのまにか品切れになっていました。
それから13年。今回出版された新版と旧版との間にはもちろん3・11の東日本大震災があり、そして昨年は対話者の一人である坂本龍一が亡くなったこともあったため、この2つのできごとにふれた中沢新一のあらたな一文がはじめに付け加えられています。
この本は、人類学者の中沢新一と作曲家の坂本龍一の二人が、三内丸山古墳から始まり諏訪や若狭そして紀伊田辺や鹿児島などの縄文遺跡を訪ねながら、縄文時代と現代とを往還する対話を重ねていく内容ですが、だからといってそれは決して古代への情緒的な幻想を求めての旅ではないのです。
とにかくこの二人は根本的なことしか考えていない。現行国家システムやナショナリズムについて、貧富の差が拡大していくだけのグローバル化する資本主義と貨幣の本質について、そしてバイナリ(二進法)思考から排除される「死」についてなど、二人は現代社会の行き詰まりに対する強い危機意識を持ちながら対話の旅を続けます。そこを抜け出るための「国家以後」を考えようと「国家以前」の縄文時代を訪ね歩き、私たちが選んできた国家ではない別の文明の可能性を、ときには国家を持とうとしなかったさまざまな社会の可能性を探っていくのです。
二人の白熱した真剣な対話は、しかしなんと楽しさに満ちあふれていることか。その真剣さと愉悦とが胸を打ちます。まだ根本的に考えることをやめたくない人に向けた1冊。
〈目次〉
なにを、どうつたえ、つくっていくのか 中沢新一
縄文とはなにか 中沢新一
プロローグ 三内丸山遺跡からはじまった、ふたりの旅
第1章 諏訪
第2章 若狭・敦賀
第3章 奈良・紀伊田辺
第4章 山口・鹿児島
第5章 青森
エピローグ さらなる旅に向けて