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著者 小津夜景
出版社 アノニマ・スタジオ
発行日 2023/12/27
タイトル中の「ロゴス」とは言葉や論理のこと、そして「巻貝」とは言葉の鼓動を耳にあてて聴きとること、という感じでしょうか。
そのように言葉と自分との関係をつづった40編のエッセイ集ですが、しかしここで著者は、自身の読書遍歴や愛読書については語らない、それは人生を安易に物語化してしまうことになるから、と述べています。
むしろあなたまかせの偶然性にあえて身をさらすようにして本について語ろうとする著者のスタイルは、まるで吹きっさらしの「今」という最前線に立つ剣豪のようです。そういえば著者が年季の入った武道家であることは中国武術マンガの金字塔『拳児』をめぐる話を読めばわかることでした。
その姿勢はひとつにはこの本でも淡々と語られているように、子ども時代から青年期にかけて身体的・精神的にある強いられた状況にあった著者にとって、読書とはおそらくその嵐を乗り越えていくために必要なものだったであろうことと関係しているのかもしれません。
そういう意味からもこの中で取り上げられている本には教養主義的な匂いや序列がまったくなく、少女マンガの川原泉とミシェル・フーコーが、あるいはヴァージニア・ウルフと殿山泰司が同じ熱量をこめて語られています。私たちはその小津ワールドに存分に翻弄されれば(愉しめば)いいのです。
それにしてもニュートンの「プリンキピア」をラップ風の歌詞に訳して遊ぶなんて、いったい他の誰が考えつくというのでしょうか。